日々是農好 Vol.011
日々是農好 Vol.011
全国さまざまな農家さんのストーリーや農業へのこだわり、
農業の未来についてなどのお話を伺う「日々是農好」
今回は北海道空知郡奈井江町の「有限会社江口農園」さんにご登場いただきました。

“おいしさ”で答えを出せることが、農業の面白さ。

有限会社江口農園 代表取締役社長 江口敏文さん

「スマート農業」と「積み重ねた経験値」の両輪。
農作物の付加価値を高めて、収益を得る

 北海道の札幌と旭川を結ぶ国道12号線の途中、29.2キロメートル続く「日本一長い直線道路」を車で走行していると、ちょうど中間あたりに奈井江町の雄大な田園風景が見えてくる。
 「私は3人兄弟の末っ子。姉が嫁いで、兄も就職してしまったので、私が後を継ぐしかなかったんですよ。本当は電気系のエンジニアになりたかったんですけどね」と冗談まじりに笑うのは、同町で江口農園を営む江口敏文さん。3代続く農家に生まれ、工業系の学校を卒業した後、21歳で農業の道へ進んだ。日々、農作業に追われる両親の姿を見て、助けたいという思いもあったという。先代は米農家だったが、より収益を上げるため、ハウス栽培にも取り組み、現在は米と大豆、ハウスではメロンとトマトを栽培している。40年以上の実績があるメロン栽培は株から2度収穫するめずらしい手法により、初夏から秋にかけて高品質なメロンを出荷し続けられるのが特徴だ。品種は熟しても食感がいいと評判の特産ブランド「北海道キングメロン」を手掛けている。
 「自治体が推進する振興作物をいろいろ栽培してきました。イチゴは高い値段で売れますが、病気に弱いため、苦労が多かった。生花とメロンを一緒に栽培していた時は、昼にメロンの箱詰め、夜は生花の出荷で、1日18時間労働。寝る時間がなかった。売上も大事だけど、身体も大事ですから、今は農作物の付加価値を高めて収益を確保し、自分たちのペースで農作業をしています」
 江口農園は家族経営で、役員4人は全員が親族。ハウス栽培の最盛期には臨時の従業員がサポートを行う。2027年には、現在、別の農園の経営者である長男が江口農園の社長に就く予定だ。SNSなどで農業に関する最新情報を収集する長男と、現場で培った勘どころのようなものを大切にする敏文さん。お互いに補完し合いながら、農業を進化させている。

原料がおいしいから、加工品もおいしい

 江口農園の人気商品に、トマトジュースがある。とろとろとした食感とフルーツのような甘味が特徴で、トマトジュースが苦手な人でもファンになってしまうと評判の逸品だ。メロン栽培で培った、水はけと水もちのバランスがいい土壌がトマト栽培にも適し、味わいを濃厚にしてくれる。
 「なぜ、おいしいトマトジュースができるのか。簡単な話で、原料となるトマトがおいしいから。私たちの農園では生食用として販売できない規格外のトマトを加工用に回すのではなく、トマトジュースのためのトマトを栽培しています」
 原料には甘味の強いミニトマトのアイコと、旨味と酸味のバランスがよい中玉のシンディスイートを使用。雨を避けたハウス栽培で、与える水分を極力抑えたトマトは甘さが際立つ。完熟期を見極め、旨味が極まったトマトだけを選別して収穫するため、糖度が高くなり、塩や添加物が一切必要ない。通常のトマトジュース加工では1リットルあたり平均800グラムほどのトマトが使われるが、同農園では1.2キログラムと多めのトマトを贅沢に使い、ブレンドを試行錯誤することでも独自の味わいに仕上げている。収穫期に農薬や除草剤を使わないシンディスイートは生食用としても人気があり、箱入りの贈答品として販売している。
 「トマトの栽培を始めたのは10年ほど前。後発で参入するからには、付加価値がないと手にとってもらえない。トマトジュースのためのトマトを栽培し、加工まで自社でやっています。瓶詰めしてからも熟成が進み、数週間置いてから飲むと、さらに深い味わいになるんですよ」
 こだわりのトマトジュースは、“旨い!”と書かれたラベルが目印で、町内の道の駅やJAなどで販売している。同町のトマト農家2軒と一緒にトマトジュースの飲み比べセットを販売し(現在は販売終了)、町興しに一役買ったこともある。

PCで遠隔操作が可能、水田の水管理を効率化

 奈井江町は、石狩川流域の肥沃な土地とミネラル豊富な雪解け水の恩恵を受けた稲作地帯で、道産のブランド米「ゆめぴりか」の産地でもある。近年は、道営の土地改良事業により農業用水など基盤整備が行われ、生産性が向上している。
 「農業用水には土地改良事業により他社バルブが標準装着されていましたが、多機能型自動給水栓(エアダスバルブ+水まわりくん)に変更しました。役場に変更のメリットを説明し、コスト的にも問題がないことを伝えると承諾してもらえました。導入前は朝夕の2回、水の見回りをしていましたが、導入後はパソコンで遠隔操作ができるので、その時間を別の仕事や休憩にあてられるようになりましたね」
 同農園の水田は約21ヘクタール。家族経営では人手に限界があるため、機械やICTの活用が必須で、自動給水栓やドローン、トラクターをまっすぐ走らせる自動操舵システムを導入し、効率よく農作業を行っている。特に土地改良により広大になった水田では、大型機械を用いた農業スタイルで収益のアップが見込める。
 「うちは米がメインですが、小豆を栽培する北海道の十勝では、自動操舵システムはマストアイテム。車は買い換えなくても、自動操舵の付いたトラクターは必ず買うと言われているくらいですから。種をまっすぐ植えることで除草がしやすくなり、その後の作業が楽になるんですよ」
 「がんばったり、工夫したり、手をかけた分だけ農作物はおいしくなる。おいしさで答えを出せるのが、農業の魅力です」

高温障害に強い農作物を見極め、特産品に

 栽培にかかる経費が高くなり、採算性を考えると転職を考えたこともあったが、ハウス栽培への参入や、独自の栽培法を確立することで食味を上げるなど挑戦の連続が収益につながった。時には失敗もあったが、“他の人には真似できない農作物を栽培したい”“食べる人を驚かせたい”という気概が成長の支えになっている。
 今後、次世代に向けてどんな農作物を栽培していくのか―。
 「日本全体がそうですが、北海道も四季がなくなっているし、温暖化が進んでいます。これまで寒冷地での栽培は不向きだと言われたサツマイモが、東北や北海道でも栽培できている。“この土地だから”という特色を出しにくくなっていますよね。今後は高温障害に強い品種を探して、味わいを上げる工夫をしながら、特産品に育てていくことが求められるんじゃないでしょうか」
 高温耐性品種は収量と品質の安定性でメリットがあるが、特産品に育てるには付加価値として圧倒的なおいしさが求められ、そのための試行錯誤こそが農家の腕の見せどころであり、面白みになるはずだ。スマート農業による効率化は強みになるが、人を感動させる農作物を生み出すのは、やはり人の判断と挑戦だろう。江口農園の“おいしさで答えを出す”というブレない情熱に、期待がかかる。

~ V O I C E ~
標準装着のバルブを変更し、劇的に効率化

 江口農園の水田は土地改良事業により段々になっていた小さな田をまとめ、一枚あたりの面積を広くしました。役場の事業として、農業用水に他社バルブが標準装着されていたのですが、効率性を高めたくて、エアダスバルブと「水まわりくん」に取り替えたんです。エアダスバルブはコスト的に見ても他社バルブよりパフォーマンスが良かったので、土地改良事業を行う役場にもご納得いただけました。パソコンで遠隔操作ができるし、水田の見回り回数も激減して仕事がとても楽になりました。今後は、他の農家で「水まわりくん」がどう使われているのか、使用例を勉強できる機会があるといいですね。


株式会社ほくつうが発刊する「日々是農好<ひびこれのうこう>」は、毎号全国さまざまな農家さんのストーリーや農業へのこだわり、農業の未来についてなどのお話を伺い、農業の魅力を広く発信していくフリーペーパーです。本誌をお求めの方や、取材のご要望については下記までご連絡ください。


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