
農業の未来についてなどのお話を伺う「日々是農好」
今回は福井県敦賀市の「株式会社ミライスつるが気比」さんにご登場いただきました。
子どもに選ばれる、“魅力ある農業”をこの地から。
「持続する」「稼げる」につながる、スマート農業。
後継者の育成と就労拠点となる組織づくり
「そろそろ一服せえよ。ちゃんと休憩とりながら、作業しないとだめやぞ」
令和8年(2026)、株式会社ミライスつるが気比に入社したばかりの新入社員3人に、通りかかった先輩が優しく声をかける。苗に風よけをかぶせていた新入たちは汗をぬぐいながら、ひと息つく。
同社は福井県敦賀市の西部に位置し、沓見(くつみ)、莇生野(あぞの)、金山(かなやま)という3 集落の農家たちで組織されている。平坦部には農作業に適さない軟弱地盤が広がり、安定的な水の確保が困難なことから農業人口は減少していた。地域の農業を守るためには、軟弱地盤の改良が必須だったという。
「10年以上前から高齢化もあって農業人口は減る一方でした。集落の農家で話し合って、圃場整備を行政に相談したんですよ。軟弱地盤を改良すれば、後継者はおのずと増えていくだろうという考えがありました。行政からは、圃場整備と並行して、後継者を作る仕組みが必要だと言われたんです」
元JA職員で、敦賀市議会議員でもある浅野好一さんは、立ち上げメンバーの一人。平成30年(2018)に開始される圃場整備に向けて、農業者の就労拠点となる同社を平成28年(2016)に設立した。出資者18人で立ち上げ、現在、社員・従業員9人が在籍している。株式会社化することで、除雪作業など農業以外の事業でも収益が得られる体制を整え、3集落以外からの就職者も増えていった。
「今年、3人の新入社員が入ってくれました。2人は男性で、農業高校の卒業生。もう1人は他の地域から嫁いできた女性。子育てがひと段落して、昔からの夢だった農業の世界に飛び込んでくれました。みんな夢中で農作業をするので、先輩たちがちゃんと休憩をとるように言っています。楽しそうに取り組んでくれて、うれしいですね」
350以上の農家をひとつにまとめる苦労
地域のために設立された組織だったが、地域をまとめあげる苦労があった。
「沓見(くつみ)、莇生野(あぞの)、金山(かなやま)の3集落には350軒ほどの農家があります。その土地を圃場整備することは、固定資産をあずかって、管理することになる。一軒ずつ農家を回って、説明して、同意を得る過程は大変でした」
小さな農地をひとつにまとめたり、農地を交換して集約したり。農家に同意を得ながら整備を進めていくことは圃場整備には必須であり、最も骨が折れるプロセスとも言える。
「そして、資本の確保も大変でした。組織の拠点となる建物が必要だし、高額な農業機械もいる。圃場整備をした田は広大になるので、農業機械も大型で高性能なものが必要になってくるので。最終的に日本政策金融公庫から資金を得て、県や市の助成金も利用しました」
福井県ではスマート農業を推進しており、県や市町が助成金を実施していることも助けになったという。人材育成に必要な研修費や資格取得にかかる費用に対して行政の助成金を活用し、新入社員3人はドローンの技能認定を受けた。
圃場整備× スマート農業、
多銘柄栽培を効率化
現在、農地は約80ヘクタール。圃場整備が完了すれば、約145ヘクタールになる。水稲を中心にほうれん草や小松菜、キャベツなどを栽培し、米の銘柄は「ハナエチゼン」「コシヒカリ」「あきさかり」「ミルキークイーン」「つきあかり」「にじのきらめき」「カグラモチ」「あきだわら」「シャインパール」「いちほまれ」の10ブランドをラインナップしている。野菜の栽培では化学肥料だけでなく、牛糞や鶏糞といった有機肥料を活用することで、食味を上げていることも自慢だ。
「これだけたくさんの銘柄を育てているところはあまりないですね。種籾の管理に手間がかかるし、田植えの時、品種が混ざらないようにするのも大変ですから。圃場整備をしたことで、多銘柄の栽培を効率化できています」
敦賀市西部は山が低く、水源が少ないことも課題だったが、圃場整備によってため池を造成することで、安定的に水の確保ができるようになった。一度使用した水をポンプで吸い上げ、別のため池に貯水して再利用するリサイクルシステムを確立している。また、圃場整備と併せて、給水管理システムやGPS搭載のトラクター、ドローンなどスマート農業を積極的に取り入れているのも、同社の大きな特徴だ。圃場整備ではもともと別だった田をひとつにしているため、どうしても土壌にばらつきが出てしまう。肥料が必要な場所、必要のない場所があり、自動で肥料の量を調整してくれる「可変施肥(かへんせひ)」の機械を導入し、土壌の状態を均一にしている。
「肥料に含まれる窒素が過剰になると、米の味を落としてしまう。肥料の量を適切にすることで、食味が上がるんですよ。無駄な肥料を与えなければ、川に流れる肥料も少なくなって、自然環境にも優しくなるというメリットがあります」
今後はドローンを最新型に更新し、肥料や農薬散布に活用していく予定だ。
輸出専用米「シャインパール」を海外へ
米離れへの懸念や世界情勢の不安定さによるエネルギー問題。農業をとりまく環境は複雑だが、浅野さんは希望を持って未来を展望する。
「米があまらないよう、国には海外への輸出ルートを確保してほしいですね。私たちはシャインパールという輸出専用米を作っていて、台湾へ輸出してきましたから。その収量を増やして輸出米にも力を入れていきたいです」
敦賀市は古くからの港町。敦賀港から台湾へ米の輸出実績があり、今後は敦賀市と姉妹都市である中国台州市への輸出も視野に入れている。「シャインパール」は福井県が開発した輸出専用米の新品種で、ブランド名には“大粒で白く輝く”という意味があり、コシヒカリ並みの食味の良さと多収性が特徴だ。現在は2ヘクタールでシャインパールを栽培しており、圃場整備後はその面積を増やしていくという。
令和8年(2026)に食料システム法が施行され、農作物は適正価格を設定しやすくなり、利益の向上が期待されている。同社では直売所を活用することで、いいものを適正価格で販売し、市場価格に左右されることなく利益を上げられるルートを確保してきた。また、「地域のために、地域とともに」という思いを持ち続け、学生への農業体験や、障がい者が農作業を担う農福連携にも取り組んでいる。
「この地で食農体験をした子どもたちが大人になった時、農業を職業として選んでほしい。自然を五感で感じながら農作業をして、収穫した時の喜びは、とてもいいものですから」
株式会社として組織化することで、経営戦略の構築をしてきた同社。それと同時に農業そのものの魅力を再確認し、地道に伝えていくことで、持続可能な農業の未来をみつめている。


~ V O I C E ~
専用アプリで機器を管理、講習会が頼もしい
弊社はスマート農業を積極的に導入しているんですよ。従来の農法にプラスすることで農作業は驚くほど楽になるし、農作物をおいしくすることもできるからです。スマート農業は若い人材にも好評で、人材確保にもつながっています。
「水まわりくん」を導入してから、田んぼへ水の様子を見に行く手間がぐんと減りました。広大な田んぼを回って水管理をするのは大変なので、とても助かっています。専用アプリの地図を見れば、どこに、どれだけの機器を設置したか一目瞭然。導入後のフォローも手厚くて、アプリの講習会を開いてくれるところもいいですね。

株式会社ほくつうが発刊する「日々是農好<ひびこれのうこう>」は、毎号全国さまざまな農家さんのストーリーや農業へのこだわり、農業の未来についてなどのお話を伺い、農業の魅力を広く発信していくフリーペーパーです。本誌をお求めの方や、取材のご要望については下記までご連絡ください。
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