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日々是農好 Vol.009

全国さまざまな農家さんのストーリーや農業へのこだわり、
農業の未来についてなどのお話を伺う「日々是農好」
今回は島根県大田市の「農事組合法人百姓天国」さんにご登場いただきました。

人と生き物が共存する、里山の環境保全型農業

百姓天国 代表理事 三島賢三さん

かつては主流だった「れんげ農法」を復活。
百姓天国に込められた、ポジティブな思い

 農事組合法人百姓天国があるのは島根県三瓶山北麓の中山間地域。標高170~200メートルの谷合集落で、段々と重なる棚田を守り続けている。平成15年(2003)に大田市三瓶町野城に任意営農組合百姓天国を立ち上げ、平成19年(2007)には法人化。百姓天国という一度聞いたら忘れられない印象的な法人名には、農作業は大変さもあるが、やるなら楽しんでやろう、故郷を天国のような環境にしようという思いが込められている。
 2000年代半ばに、20戸未満の農家が集まり、営農組織化に踏み切った背景には、社会環境の厳しい変化があった。平成8年(1996)の三瓶ダム建設で一部の集落が移転し、住民減少に拍車がかかり耕作放棄地が目立ち始める。2000年代に入ると減反政策や輸入米の影響で米価が下がり、その対策を行うにしても個々の農家では限界があった。
 「当時、米価は下がっていくし、農業資材も高い。上の世代が田んぼをやめていくという状況でした。地域がすたれていくのを止めようと、農家の中でも50歳代くらいの人が話し合って、営農組織化を決めました。この地域のいいところはまとまりがあること。みんなでがんばろう、楽しんでやろうという気概があるんですよ」
 同法人の代表理事三島賢三さんが営農組合に参画したのは56歳の頃。市役所を早期退職し、組織の法人化にも携わった。周りの集落でも営農組織を法人化する流れがあり、他に負けられない、故郷を埋もれさせるわけにはいかない、という思いがあった。経営感覚を持って、収益を上げるために何ができるのか。ニーズを読みながら、法人を運営していくことは大変だが、楽しかったという。

れんげを天然の有機肥料にしたブランド米

 百姓天国の特徴は、環境保全型農業を行っていること。農薬や化学肥料の使用量を減らし、堆肥による土づくりを行うなど里山の自然や生きものに配慮した農業を実践している。経営面積は約10ヘクタールで、その内9割ほどで有機栽培、特別栽培の米を育てている。
 「私が子どもの頃は、れんげを使った農法が主流だったんですよ。春になると集落にれんげの花が咲き、それが故郷ならではの風景でしたから」
 現在、環境に優しい2 種類の米を栽培しており、そのひとつが「三瓶れんげ米コシヒカリ」だ。秋にれんげの種をまき、春に満開になったら、それをまるごと田んぼにすきこみ、米の栄養源にする。れんげの根が持つ根粒菌の働きで、空気中の窒素が土壌に取り込まれ、天然の有機肥料となるため、化学肥料は必要ない。かつて当たり前のように行われていたれんげ農法は手軽な化学肥料の登場により一旦すたれていったが、三瓶町の営農組織化に伴い復活した。「三瓶れんげ米コシヒカリ」は、もうひとつのブランドである化学農薬や化学肥料を使用しない「三瓶甘露米こしひかり」とともに人気があり、毎年収量がおいつかないほど引き合いがある。環境保全型、有機栽培であることがブランド力となり、直販でリピーターを増やしてきた。大規模な組織には収量では太刀打ちできないが、小さい組織でもきらりと光る法人にしたいという思いは、環境保全型農業に特化することで、着実に実を結んでいる。

餅や大福は売上の4分の1を占める人気商品

 1月の終わり頃、地元の直売所ではいちご大福が飛ぶように売れていく。ゴールデンウィーク頃までの限定商品で、百姓天国のもち米を使った餅に大田市産のいちごと素朴な甘さの餡が包まれ、一度食べたら忘れられないおいしさだ。加工部のスタッフは農家などの女性6人が担当。閉校した大田小学校野城分校の旧校舎を加工場に活用し、杵つき餅を販売する年末年始の繁忙期には隣町の営農組織にもサポートしてもらっている。地元で育てたもち米やこんにゃく芋を原料にした餅や大福、こんにゃく、春の山菜おこわといった加工品はどれも手づくりなので量産はできないが、味が良いと評判。今では同法人の売上の25%を占めるほどに成長している。スタッフたちも、自分たちが手掛けた商品が喜ばれる様子を目の当たりにすることが励みになっているという。
 百姓天国が手掛けた米や加工品の目印になっているのが、パッケージにあしらわれたオリジナルのロゴマークだ。農家にとってやっかいものであるはずのイノシシが描かれており、生きものとの共生を掲げる環境保全型農業を象徴している。
 「イノシシが田畑を荒らすようになったのは十数年前。里に出てきて、悪さをするようになりました。山と里の境界があいまいになったり、農家で犬の放し飼いをしなくなったり、いろいろな原因が考えられます。ただ、むやみに退治するのではなく、どうしても田畑に入ってきてしまうイノシシだけを退治するようにしています」
 イノシシはタケノコが大好物で、それを食べてくれることで、竹藪が広がりすぎることを防ぐ役割を担っている。農業にとっては不都合があっても、山を守る上では味方になってくれるという発想で、イノシシとも共生を目指している。

ささやかな幸せこそ、本当の豊かさ

 同法人に登録している組合員は34人。常駐で農作業を行うのは4~5人ほどで、コンバインを操作するオペレーターは2人。人手が足りない時はSNSを活用して臨機応変に依頼をしている。加工品を担う女性スタッフたちは、農作物の金額設定やブランド力の強化などにも知恵を出してくれ、欠かせない存在になっているそうだ。
 全国の中山間地域共通の悩みだが、同法人でも少子高齢化が進み、今後の課題は人手不足と後継者不足。省力化、軽労化のために、できるところからスマート農業を取り入れている。数年先を見据えて令和6年度末には圃場整備を終え、水路のパイプライン化と、ロボット作業がしやすいよう法面の傾斜を緩やかに改良した。法面の除草作業を軽減するため、芝を貼る対策をしたこともあったが、雑草の勢いは止められず、現在はロボットによる除草作業を行っている。同法人が実践する「有機栽培」「法面の工夫」「自動水管理」の3点は、他の営農組織から注目度が高く、視察の依頼も多い。
 「ドローンやロボットを活用した農作業、水管理の自動化などを進めてきました。有機栽培はどうしても手間がかかる。スマート農業で捻出した時間を有機栽培の作業に回すことができています。後継者の面でも、スマート農業は若い世代に関心を持ってもらうきっかけにもなりますから」
 20年前とくらべると人口は減っている。ただ、自分たちの集落に寒村というイメージはない、と三島さんは笑顔を見せる。収益を上げることは大切だが、環境保全、有機農業という軸をぶらさず、自分たちが輝ける土俵で勝負をする。そこには実りをともに喜び、感謝するしあわせの形があり、農業のひとつのあり方を示してくれている。


~ V O I C E ~
有機栽培の深水管理に活躍してくれています!

 以前、他社製の水管理システムを使用していましたが、トラブルが多かったので「水まわりくん」に切り替えました。有機栽培では深水管理が基本。深水管理とは農薬や除草剤に頼らず雑草を抑制し、苗を保温・強化するために田んぼの水を一時的に深く保つ管理方法で、手間がかかるんです。以前は田んぼへ足を運び、水量が少なすぎないかをチェックしていましたが、現在は「水まわりくん」のセンサーを使って水位管理ができるので、手間がずいぶん省かれています。スマートフォンで操作できる点も組合員に好評です。視察団の説明会で使い方を紹介すると、興味を持たれますよ。


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